ある日の「土佐くろしお鉄道」にて

過疎からの贈り物=四万十川・・・からの情報
                    letter from Shimanto
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土佐くろしお鉄道中村駅
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太郎が「ちょい用」で駅の駐車場の端に停車したとき、その初老のご婦人は車から降りて駅に向かう途中だった。

 「あっ江口先生じゃないかな?ご挨拶しなくては!」…と思ったが遠くて明確でない…

その女性は急ぎ足で改札口に向かった。彼女は我が息子が保育園時代にお世話になった先生だが、なんせ30年も前の話である。無理して追いかけるのもお邪魔かな…と思って静観した。

太郎が駅の事務室で所用を済ませて帰ろうとして先生の車の後ろを通ると…ライトが点いているではないか。このまま旅行に出たなら、帰着した時にはエンジンが掛らない。

駅の待合室を探したが見当たらない!構内をみると2番線の「上り列車」が発車寸前でベルが鳴り始めていた。構内にはこの列車だけだった。状況からして…その車内に居る事は間違いないものの向かいのホームである。「いかに健脚でも…橋を渡って特急内で人探しは無理だ!」と太郎は思った。すると駅長が立ち上がった!

  「車のナンバーは?」
  「2010!」
  「車種は?」
  「判らんが“色が白”!」
  「よっしゃ!」

駅長権限だろうが判断は速かった…線路に飛び降り、2線を走って越え、発車寸前の特急に乗りこんだ!

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 「ややあって…」
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しばらくすると「駅長」が手に車のカギを持って帰って来た!

  「何とか間に合った!よかったぁ!」
  「よかったねえ!けど…カギはどうするの?」
  「明日の帰りに窓口に寄るって!」

二人で駐車場へ行ってライトを消して…「じゃあ」「じゃあ」と云って別れたが何だか心が暖かくなっているのに気がついた!おそらく特急では車内の誰もが、駅長の大声を聞いて同じ思いを持ったことだろう!

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 「江口先生」
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太郎が30年前の息子の保育園の先生を憶えていたからこそ成り立った行動だが、要因は二つある!

 ① 息子がお世話になった「恩」への感謝の心
 ② 女性を見逃さない「太郎の好奇心」

それよりも大切な要因は…「駅長の旺盛なサービス精神」だったのかもしれない!